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2021.12.18 sat. - 12.26 sun.

立花 英久の塑像

立花 英久の塑像

 手続を守る
                    立花英久 

 それは、ずいぶんとむかしにメモをとった言葉だった。走り書きにはこう書いてある。「われわれが古風な手続を守り、世界に対して和解の言葉を語り、取り戻した調和のよろこびと、愛のやりとりへの尽きせぬ欲望について話すことを許してほしい。」(デボラ・モガー『チューリップ熱』より抜粋)。フェルメールの手紙を、作家が引用していたらしく、その脇には、さらにわたしの字で「ここでいう『手続』ということばは、僕らのよく使うそれよりもかがやいて見える」、と添えてあるのだった。
 わたしはノートのページを、前に、前に、ぱらぱらとめくった。机にずっと積まれたまま、埃を吸い込んだ一冊だ。
「彼女の言うとおりだった。」
 わたしは手を止めた。
「僕は手持ちのカードを全部テーブルの上に並べ、それが全部相手のカードに負けたのだ。僕はみんなに手を読まれてしまっているようだった。『どうも行くしかなさそうだな』と僕はあきらめて言った。彼女は微笑んだ。『きっとあなたのためにもそれがいちばんいいのよ。羊はうまくみつかると思うわ』」(村上春樹『羊をめぐる冒険』より)
 およそ二〇年以上も前の、ずうっと前の、わたしに背中を押されているみたいだ。
 むかしのわたしがもう一人のわたしのように、ノートに向かって鉛筆を走らせているのが見える。それから、しずかに、徐々に、いつのまにか跡形もなく消えた。
 となりの部屋から、なにか飲む? と声がした。
 

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